
こんにちは。
不動産営業の現場では、ベテラン社員の退職や高齢化によって「暗黙知の消失」が進んでいます。これまで個人の経験や勘に頼っていた営業ノウハウが共有されず、若手が成果を出すまでに時間がかかる。せっかく採用した人材が定着せず、数年で離職してしまう―。そんな悩みを抱える企業は少なくありません。
この状況を打開するカギとなるのが、ベテランの知見を体系的に伝え、若手の育成と定着を両立する「メンター制度」です。
今回は、不動産営業組織の生産性を高めるための、メンター制度構築の具体的ステップを解説します。
不動産業界の方はもちろん、営業に携わる皆さんのご参考にしていただけると嬉しいです。
不動産営業にメンター制度が必要とされる理由

不動産業界は、地域特性や法規制、顧客心理など、他業種に比べて習熟が難しい分野です。だからこそ、経験を「人」ではなく「仕組み」として残すことが、企業競争力を保つうえで欠かせません。ここでは、不動産営業にメンター制度が必要とされる理由についてお話しします。
暗黙知の形式知化が営業力を底上げする
ベテラン営業が培ってきたノウハウや顧客との距離感、信頼構築のタイミング、提案の切り返し方。これらはマニュアルでは再現できない「暗黙知」と言われます。メンター制度を導入すれば、こうした経験を体系的に共有し、チーム全体の営業力を底上げすることが可能になります。
若手の定着率とモチベーションを高める
若手社員が早期に成果を実感できる環境は、モチベーション維持に直結すると言われています。日々のフォローや相談相手がいることで、不安や孤立を防ぎ、「この会社で成長できる」と感じることができるからです。そのため、メンター制度は、モチベーションの維持にも繋がりやすく、離職率の低下にも大きく影響を与えます。
組織全体の利益を最大化する
個人のスキルを組織資産に変えることは、採用コスト削減にもつながります。属人化を防ぎ、誰でも一定の成果を出せる体制が整えば、新人教育のスピードが上がり、トップセールスの再現が可能になります。結果として、営業組織全体の安定成長を実現できるのです。
ベテランの「暗黙知」を形式知化する手法

前章でお話しした通り、不動産営業の強みは、ベテランが積み重ねてきた経験にあります。
顧客の反応を瞬時に読み取る力、信頼を得るタイミングの見極め、契約に至る心理のつかみ方、いわゆる「感覚の技術」はマニュアルに落とし込みづらく、属人化しやすい領域です。
しかし、それを「誰もが学べる知識」に変えることができれば、営業力の再現性が高まり、組織全体の底上げが実現します。
ここでは、現場で実践できる3つの形式知化の方法を紹介します。
経験を共有資産にする
まずは、営業活動の中で得た経験を「データ」として蓄積する仕組みを整えましょう。例えば、「成約に至った提案内容」「顧客との会話の流れ」「決断の決め手」などを簡単なテンプレートで記録します。
営業会議や朝礼で共有すれば、若手は具体的な成功パターンを学ぶことができ、ベテランの感覚が“組織のノウハウ”として残ります。
失敗事例も同様に重要です。「なぜ断られたのか」「どんな改善が必要だったか」を記録することで、営業プロセス全体の質を高めることができます。
このデータベースを社内のナレッジツールやクラウド上で管理すれば、誰でも検索・閲覧できる環境が整い、属人化を防ぐことができます。
現場の技を“見える化”する
営業トークや現地案内のように、言葉や動きの“ニュアンス”が成果を左右する場面では、動画による共有が最も効果的です。ベテラン社員が実際に「物件案内の流れ」や「説明のコツ」を実演する様子を撮影し、社内研修やeラーニングで活用します。
動画は繰り返し再生できるため、遠隔拠点の社員教育にも有効です。
また、「この言い回しが刺さる」「このタイミングで資料を出す」など、紙のマニュアルでは伝えきれない細部まで再現可能になります。新人が“見て学ぶ”文化をつくることで、ベテランのノウハウが世代を超えて継承されていきますね。
ケース会議と対話で思考を言語化する
最後に重要なのが、ベテランの「思考のプロセス」を言語化することです。成功や失敗の背景には、必ず「なぜその判断をしたのか」という理由があります。
月1回程度のケース会議を設け、実際の案件を題材にディスカッションを行うと、ベテランの思考の流れをチームで共有できます。
また、メンター制度と連動させて「質問ノート」や「1on1面談」を実施すると、若手が日々の疑問をメンターに投げかけ、対話の中で知見を引き出すことができます。
この積み重ねが、形式知化の最も自然で持続的な方法です。
まとめ
メンター制度は、単なる教育制度ではありません。
それは、ベテランの知見を次世代へとつなぐ「営業組織の資産化」であり、企業の持続的成長を支える未来への投資です。
ベテランの経験を仕組みで伝えることができれば、個人の力は組織の資産へと変わり、未来の営業力を支える大きな土台となるでしょう。
みなさんの参考になれば嬉しいです。
お読みいただきありがとうございました。