賃貸仲介業を始めるにあたって、なによりも重要になるのは、「商圏エリア」の設定だ。
数年前までは、この「商圏エリア」という言葉は、「出店場所」と言い換えることもできた。オンライン内見が進んでいる最近では、「出店場所」はそこまで重要ではなくなったかもしれない。しかし、それでも上記の「商圏エリア」の設定によって、大きく自社の賃貸仲介業の未来が変わるだろう。
とある会社は、郊外に出店し、それが大当たりして、一気にその郊外エリアの有名不動産会社になった。またとある会社は、都心部に出店し、ハイセンスな顧客層を多く獲得していた。実際に事業のやり方や方法もエリアによって大きく異なる。今回は、各商圏エリアへの進出メリット、デメリットを紹介していきたいと思う。
まず都心エリアの進出についてである。
都心で出店するメリットとして、「客付可」の物件が沢山あることがあげられる。「客付可」の物件というのは、「その物件を管理していない他社の不動産会社でも紹介できる」物件のことである。つまり、たとえば全くオーナーから物件を預かっていない状態の新設の不動産会社であっても、すぐに事業が開始できるのが強みだ。実際のところ、ターミナル駅に多くある独立系の不動産会社は、ほとんどこうした新規の企業が多い。イメージは、ターミナル仲介店で、数年修行し、独立するケースである。なによりも気軽に(資金面はさておき)、独立し、物件紹介できることが強みである。
また、都心ターミナルに事務所を構える(もしくは商圏に設定)することで、採用活動にもメリットが生まれる。ターミナルの事務所の採用力というのは、とても強い。これもひとつの魅力だろう。
しかし、メリットだけではなく、デメリットもある。まず、圧倒的に競合他社が多いことだ。競合他社が多いと、当然、顧客の奪い合いが発生する。そうした場合、賃貸仲介業でポイントになるのは、手数料の大幅な値引きやかなり強い営業力になってくる。都心だからといって、顧客の獲得に困らない、なんてことは、賃貸仲介業ではあり得なくなってくる。
一方、郊外での進出はどうだろうか?
郊外を商圏として賃貸仲介業を行う際に必要な要件として、「管理物件の獲得」があげられる。これは先程述べた都心型の「客付可」物件がかなり少ないことが理由である。郊外に行くと、広告掲載可能で客付が可能な物件数はぐっと下がるため、自社で管理物件を獲得しなければいけないのだ。
そのためには、オーナーと交渉し、自社の管理物件を獲得しなければならない。一時的には大変な作業だが、こうした管理物件の獲得が上手くいくと、かなり収益性は安定してくる。地域のオーナーは、複数物件所有している地主の方も多いし、横の繋がりもあるので、芋づる式に管理物件が増えてくることもある。
ただ、こうした郊外型の進出もやはりデメリットがあることを忘れてはいけない。まず何よりも、管理物件を獲得することが、難しい。いきなり商圏エリアを郊外に定めて、管理物件獲得に動いても、結果はなかなかスグには出ないだろう。管理物件の獲得ができないとなると、客付可能な物件を探さなければいけないが、今度はその件数が少ない。そうなると、打ち手が無くなる、ということになりかねないのだ。
またその地域の不動産会社で働き、そのエリアで独立すると、やはり前職との関係性の維持は難しくなりがちだ。これも、都心の場合と異なっている点だろう。独立して、同業他社を敵にまわすことも、当然大きなデメリットになる。
以上のように、商圏エリアを設定すると、同じ賃貸仲介業といえども、戦略は大きく変わる。
営業力に自信があり、マネジメントもできる人材がいる場合は、都心型で戦っていくのが良いだろう。また地元の人脈や、地域のコネクションなどがあるかたは、そのエリアで出店し、管理物件を獲得しながら、仲介業を始めていくのが良いだろう。
いずれにしても、これから賃貸仲介業を始められる方は、どの商圏でビジネスを行うのか、是非上記を参考にしてほしい。
また一方で、現在、賃貸仲介業を行なっている方は、是非自社の戦略が、その商圏に最適な戦略なのかを見直してみてほしい。
南智仁